こんにちは、製造業ライターの堀内孝浩です。
工場で働いているとさまざまなミスに出くわすことがあると思います。
「調合時に投入する原料を間違えてしまった」「ネジのサイズを間違えて取り付けてしまった」――などなど。
工場ではまだまだ人の手による作業が多いため、それだけミスも発生しやすいものです。
ミスが発生したら、ほぼ確実にその発生原因への対策案や改善策を考えることになります。
日本の製造業が強いのはこうした「カイゼン」を積み上げてきたからだと言われています。トヨタはその筆頭であり、カンバン方式やアンドンなど独自のカイゼンを取り入れてきました。
しかし、業界で働いているとたまに「そのカイゼンって果たして現場のためになっているの?」と思わされることがあります。
「一つミスがあるたびにやらなくてはいけない作業が増える」なんて思ったことはありませんか。今回はそのへんについて書きたいと思います。
現場に負担をかける「カイゼン」もある
ミスが発生したら、二度と同じミスが起きないように原因と対策を立てるのは筋道として間違っていません。対策案を考えてミスが起きなくなれば、それはカイゼンと言えなくもないでしょう。
しかし、こんなケースはどうでしょうか。
ある飲料工場の調合において、作業者がタンク内に投入する原料を間違えたとします。これまでのやり方では調合する作業者しか原料が合っているかをチェックしていませんでした。この場合にありがちな対策案としてダブルチェックの導入があります。
結果としてミスがなくなれば良しとする見方もあります。しかし、ダブルチェックだと二度目にチェックする人は自分の仕事をいったん止めなくてはなりません。一日に何度もあれば結構な負担となるかと思います。
このようなカイゼンは追加型のカイゼンとも言われます。ダブルチェックは追加型の最たる例で、なにかミスが発生してその対策案を立てると、おうおうにして追加型のカイゼンへと陥るのです。
経営者や管理者には理解されづらいのですが、追加型のカイゼンは現場に負担をかける悪手だと考えています。
ミスの原因は人ではなく仕組み
「人間だからミスはする」という言葉はよく言われています。それはその通りなのですが、一方で仕組みがミスを誘発しているという見方もできます。
ある時、下の記事を読んでハッとさせられたことがありました。
以下、少し引用させていただきます。
つまり、この“問題は個人のミスに起因する”という認識なのだ。それでは、担当者が休息をとり十分睡眠をとっていれば、ミスの発生は完全に防げるのか?
そんなことはあるまい。絶対にミスをしない人間などいないからだ。人間は、どんなに主観的に注意し努力しても、必ずミスをおかす存在である。これが、品質管理の基本前提なのだ。だから、担当者一個人のミスが、そのまま製品の欠陥につながり、出荷されてしまうとしたら、そのシステム自体がおかしいのだ。制度設計が間違っているのかもしれないし、運用に無理があるのかもしれない。
引用:なぜなぜ分析は、危険だ
なぜなぜ分析は製造業にいる人なら聞いたことがあるかもしれません。トヨタで実践している問題の原因を探すフレームワークです。ある問題に対してなぜ起きるのかを探し、その原因を掘り下げてまた原因を探すということを5回繰り返して真の原因を見つけるというものです。
上記の記事の執筆者は、ミスの発生原因を突き詰めていくと作業者が原因、つまり人的ミスという結論にたどり着く恐れもあると指摘しています。大事なのはミスが起きる原因は人ではなくシステムだということです。
ECRSの4原則
ではカイゼンをしたい場合、どのように取り組めばよいのでしょうか。
カイゼンに効果があるものとしてECRSの4原則という考え方があります。ECRSは、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(代替)、Simplify(簡素化)のことで、効果の高い「排除」から順に考えていきます。
ミスを起こしやすい作業を無くすことはできないか(排除)、作業と確認を同時に行えないか(結合)、確認する項目を入れ替えられないか(代替)、規格や基準を単純化できないか(簡素化)、などと考えていきカイゼンをしていきます。
先の飲料工場の例でも、
「一日に何種類もの製品をつくるからミスが起きるはず。ならば一度に製造する種類を減らそう」
といったような簡素化を実行することも有効かもしれません。
ECRSに則ったカイゼンは作業者の負担を軽くするものであり、追加型とは違います。一朝一夕にはいきませんが、試す価値はあると思います。
まとめ
今回は製造業のカイゼンについて思うところがあったので、書いてみました。カイゼンと聞くとすべて良く聞こえますが、実は改悪ともいえるようなものに出くわすこともあります。作業者の負担を重くするような対策案に走らず、システムから変えていくような取り組みをしてほしいと願っています。
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